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ドーンDAWN2号

発行日:1994年10月1日
児童文学ファンタジー大賞

この度、絵本・児童文学研究センターでは「児童文学ファンタジー大賞」を創設することになりました。
本企画は新作を選考対象とし、応募資格もプロ・アマ・国籍・年齢・性別を問わず、既存の文学賞に比して極めて幅のあるものと致しました。

時代の推移とともに価値観・人間観の多様化が進行している現在、広く書き手を募ることにより、新たな可能性を有した文学の創出を期待するものであります。そのために最終選考の各委員も幅広いジャンルからお迎えし、上記の要望に応える体制を整えた次第です。

本大賞は、福音館書店・各新聞社等の後援・協カで、今後毎年継続されるものであり、これを支える実務運営体制に於いても小樽市民各界各層の協力を得ることができました。

本事業は絵本・児童文学研究センターの公益事業であり、これによって本センターが利益を得るものではありません。あくまでファンタジーの新たな創作を通して、児童文化の可能性を追究するとともに、後世に伝承しうる作品発表の場所を提供するものであります。奮ってご応募のほど、お待ち申しております。

絵本・児童文学研究センター
大賞運営委員会
第1回児童文学ファンタジー大賞募集概要

【主旨】
ファンタジー文学の優秀作品を公募することにより、児童文化の新たな模索と後世に伝承しうる作品の創造を目指し、わが国の文化向上の一助となす。

【主催】絵本・児童文学研究センター

【後援】
小樽市・小樽市教育委員会北海道新聞社・北海タイムス社・朝日新聞社・読売新聞社・毎日新聞社・日本経済新聞社・福音館書店

【選考委員】
委員長河合隼雄(京都大学名誉教授)
副委員長神沢利子(児童文学作家)
佐野洋子(絵本作家)
清水真砂子(評論・訳本家)
幹事高橋純(小樽商科大学仏文学教授)
幹事中澤千磨夫(北海道武蔵女子短期大学助教授)
代表幹事工藤左千夫(絵本児童文学研究センター所長)

【選考方法】公募

【選考基準】
対象…… 小学校中・高学年~中・高・一般までを対象としたファンタジー文学で末発表に限る。但し、同人誌掲載は可とする。
資格…… プロ、アマ、年齢、性別、国籍不問。但し、日本語原稿に限る。
原稿…… 1)400字詰縦書き原稿80~500枚程度(2部提出すること)
ワープロ原稿に関しては1枚400字換算枚数を明示。
2)800~1000字程度の粗筋を必ず添付すること。
注意…… 1)選考に関しての問い合わせは一切応じない。
2)応募時には略歴を添付すること。
3)ペンネームの応募も可とする。
4)原稿の返却は行わない。
5)コピーを含め2部提出のこと
6)他の賞との同時応募は認めない。

【締切・発表】
公募期間1994年11月13日~1995年4月15日(消印有効)
発表「候補作」1995年8月中旬ごろ全国発表「大賞」1995年10月中旬ごろ全国発表
授賞式1995年11月中旬(小樽にて)

【正賞・副賞】
大賞(1)正賞賞状・手島圭三郎オリジナル版画「冬の空」
副賞賞金100万円

佳作(1)正賞賞状・手島圭三郎オリジナル版画「冬の空」
副賞賞金10万円

【作品発表】
著者と出版社の協議と相互了解を経て出版の予定。その場合は著作権は著者に、版権は出版社に属する。佳作も上記に準じる。

【お問合わせ・応募先】
絵本・児童文学研究センター
〒047-0036 北海道小樽市長橋3-1-2山下ビル3F
TEL(0134)27-0513 FAX(0134)29-4624

河合隼雄
選考委員長/現在国際日本文化研究センター名誉教授/京都大学名誉教授/本センター顧問/臨床心理学者
●世界的な臨床心理学者として著名であり、著者も多数。本年、岩波書店より著作集全14巻刊行中。豊富な臨床体験と東西文化の比較、ユング心理学等の深い洞察を通して独自の世界を構築中。奈良市在住。

この度、小樽において、絵本・児童文学研究センターによって、児童文学ファンタジー大賞が設定されたことは、わが国の児童文学の発展のために三重の意義を持つものと思わ れる。まず第1には児童文学のファンタジーについて賞が設定されたこと、第2は小樽という都市において、それが企画されたということである。ファンタジーは、日本人には不得意なジャンルである。これはファンタジーの作品を生 み出すためには相当堅固な合理性を必要とするが、欧米人に比較すると日本人はその点でどうしても劣るということが、その原因のひとつであったと思われる。文化の伝統というものは測り知れぬ力をもっているので、日本人がファンタジーの傑作 を書くのは大変と思われるが、西欧音楽の世界で、多くの日本人が国際的な活躍をしているのを見ると、ファンタジーの世界でも、そのようなことが生じるのではないかと思う。 そろそろいいタイミングが来たと思うし、何か新しいものが生まれて来そうだという始動を感じている。次に、何につけても日本は東京一極集中になり勝ちのなかで、このような企画が北海道 のひとつの都市によって考えだされたことの意義も大きいと思う。小樽は伊藤整を持ち出すまでもなく文化的な伝続を待ち、町のたたずまいも、文化的なものを生み出していく雰 囲気を持っている。そして、今回の企画は絵本児童文学研究センターを中心として、小樽市全体をあげての盛りあがりのなかに出来あがってきたと聞いている。このことが成功す るのは、児童文学の発展のみならず、日本の地方の各都市の文化的な興隆に対しても寄与するものがあると信しでいる。今回、幸いにもこの賞の企画に参加させていただくことになり、役不足ではないかと心 配しながらも、先に述べたような大きい意義を感じて敢えて引き受けさせていただくことにした。全国から多くの傑作が寄せられることを心から期待している。
神沢利子
選考副委員長/現在児童文学作家
●日本を代表するファンタジー作家であり、創作活動における真撃な姿勢と根源を求める感性は衰えることを知らない。大人・子どもの境界を越えた多くの愛読家の存在は、神沢文学の無眼の可能性を知らし めるものである。東京都在住。

すぐれたファンタジーを読んだ後、しばらくはまだ物語の世界の中にいるようで、わたしはただぼおっとしています。ややあって、ふっとわれに返った時、わたしは以前よりも いっそう人間を愛らしく思う心に満たされている自分を感じます。それがひたすら美しいロマンである場合も、胸をつき刺すきびしい物語である時も全く同じように……。 子どもたちの魂にひびいて、子どもたちが真に夢中になれる物語が、今ほど求められる時代はないと思います。ファンタジーは見せかけの現実ではない真実を伝えるものです。 この度、日本の北方の一角から声をあげて、新しいファンタジーを多くの方々から募ることになりました。心こめた作品をお寄せ下さいますように。
佐野洋子
選考委員/現在絵本作家
●「おじさんのかさ」「100万回生きたねこ」等、独特で且、心を打つ作品群は絵本文学と呼ぶに相応しい。また、軽妙なエッセイ群も氏の豊かな感性を物語り、その本音 (毒舌?)の前ではオブラートなど通用しない。東京都在住。 

日本人にとってファンタジーという外国語を定義するのは大変難しい。私にはほとんど理解不能で、そればかりではなく、ファンタジーと云われただけでムカッと反感を覚えることもある位です。ファンタジーといわれるものに何か現実を逃れるというニュアンスも感じられるからかも知れません。人は現実を生きます。生きざるを得ない。しかし現実だけで生きられないのも又、人問です。子供の頃から私達は、何と沢山のこ の世では起こり得ない事を夢見たことでしょう。夢見たことも現実を生きたことになります。しかし唯夢見る人であってはならない。又夢見ることを知らない人であってもならな い。私達は沢山の物語を読みます。しかし人は結局は自分という唯一つの物語を生きることになります。現実を越える物語を読み又現実に戻った時、さらに現実がより強靭で豊か な輝きを持てたらそれがファンタジー文学と云えるのかも知れません。
清水真砂子
選考委員/現在評論/翻訳家
●「ゲド戦記」(1~4巻)の訳者として、その翻訳の力量は周知である。また、「子どもの本の現在」等、評論分野での評価も高く、氏独自の観点から子どもと大人、性別等の境界を取り外し新たな地平を模索している。掛川市在住。  

「センチメンタルでもなく、軽率でもなく、うんと強くて、しかもすがすがしい浄化力をもった一種の活気」(『幼い子の文学』P187-188)瀬田貞二氏はそういう力を 備えた物語を子どもたちに、と願っていました。つつましく、偉大であった先達のこのことばを私はいつも思い出します。ファンタジーだからこそ書けることがたくさんありましょう。ファンタジーだからこそ展開できる世界、ファンタジーだからこそ深められる世界、ファンタジーだからこそのぞける世界……。そうしたさまざまな世界がリアリズムにしっかりと裏打ちされた物語とな って届けられるのを待っています。北の町小樽から発信される新しい物語の数々がファンタジーの世界にさわやかな風をまきおこしてくれますように。その現場に立ち合わせていただけるとは、なんというしあわせでしょう。期待に胸がふくらみます。
中澤千磨夫
選考委員会幹事/現在北海道武蔵女子短期大学助教授/本センター評議員
●永井荷風、谷崎潤一郎などを専門とするが自らの専門にとどまらず、授業ではユニークな世界に取り組む。また道内新聞紙上での書評・時評は評価が高い。近々「荷風と踊 る」が刊行予定。小樽市在住。 

大人はだませても、子どもはだませない、ということもあろうし、またその逆もあろう。でも、傑作の条件は、子ども大人に限らず、誰もあざむけない、という点にあるはず。 これが、存外むずかしい。現況の児童文学は、子どもを囲い込んでしまってはいないか。たかをくくってはいないか。そんなことでは、化けの皮はすぐに剥げ、やがてその子らに棄てられてしまおう。ボ ーダーレスの時代といわれて久しい。子どもの本を、大人に解放しよう。大人を引きずりこもう。侵略しよう。本当の物語は、時空を越えて立ち現われる。ひとりの読み手の前にも幾世代を経た読者 の前にも。年少時に心ときめかした作品に、年経て別の輝き・意味を発見する驚き。100年後、1000年後の読者は、私たちの知らない光を見つけるだろう。おおげさにいうのではない、ギリシャの悲劇も、源氏物語も、漱石も賢治も、そのよう に、読みつがれてきたし、読みつがれていく。古典は常に新しい。「児童文学ファンタジー大賞」は、そんな物語を待っている。
工藤左千夫
選考委員会代表幹事/現在絵本・児童文学研究センター所長
●生涯教育と児童文化の接点を模索しつつ本センタ一を1989年に小樽で開設した。現在総会員数600名を越え、2年半に渡る54回の講座を行うとともに、多様な公益 事業に取り組んでいる。小樽市在住。

「児童文学ファンタジー大賞」が漸く公募の時宣を得た。それにしても一つの大賞を創出するということは様々な世界との逡巡である。何事も一足飛びという訳にはいかない。 しかしどのような局面が生じても、世の中には多くの「読み手」がいる。「読み手」は多種多様であり、当然好みも千差万別である。有り難いことに、ここ20年そのような「読 み手」の群れと多く出会うことが出来た。真の「読み手」はジャンルを選ばない。自分の趣向を固定させない。そして作品のエキスを自らの生き方として考える。私も「読み手」の一人である。仕事上、作品やファンタジー理論に関して言葉を使用す ることが多々あるにしても、私は「読み手」の1人である。今回の大賞創出の原動力は、このような無数の「読み手」の心と思っている。
手島圭三郎
現在日木版画協会会員版画家
●北の厳しい自然と動物との関わりを描き、絵本界では新たなぺ一シが開かれた。諸外国にも氏の作品は数多く翻訳され、国際的評価も高い。ボローニャ国際児童図書展 グラフィック賞受賞をはじめとして多くの受賞作がある。江別市在住。 

冬の空にシロフクロウを配し、冬を象徴的に表現しはじめたのは、20年ほど前からで、絵本をはじめ多くの作品に登場しました。これは私の子供の頃から深く沈殿していた 世界が、頭をもたげてきたものです。暗い空にシロフクロウが現われ、翼を拡げると、翼の下の地上がみるみる白い世界に変わって行きます。恐ろしいほどのエネルギーを秘めた 世界です。シロフクロウは長い冬の間上空に居座り、地上の白い世界を満足そうに見下ろしています。やがて春近く、シロフクロウが飛び去って、空は青空に変わるのです。 この発想の根元になるものは、幼少年時代に過ごしたオホーツク海の流氷のイメージの転化なのでしょう。当時の流氷は一夜にして、暗い海を白く荒涼とした世界に変えまし た。轟くような海鴫をピタリと押さえて、地の果てか、月の世界を連想させました。その淋しさを一層増長させるものは、暗い水平線上の空です。頭上に冬の大陽があっても、不 気味な重い鉛色にひろがっていました。あの暗い空のむこうにはなにがあるのだろうか、子供心にも、淋しさをまぎらわせるかのように、いろいろ空想をはたらかせました。流氷 の世界は、私の心の中に自然の形をいろいろ空想して別の形を創り出す力と、じっと辛抱し耐える力を与えてくれました。現在の私にとって、冬は物を考えるのに最も適している大切な季節です。もし雪の降ら ない土地で生活することを強要されたら、私の創造的思考力は、あっという間に枯渇するかも知れません。家に閉じこめられ、吹雪のうめき声を耳にし、ストーブの炎を見つめ、 カーテンのすき間から、雪の積もった樹々の形を見る、そんな生活があって、作品が少しづつ積み重なって行くのです。そして明るい春が来たら発表するという希望を失いませ ん。シロフクロウのイメージは、私のような典型的な北国型人間の制作活動の象徴でもあるのです。
斎藤惇夫
福音館書店常務取締役/児童文学者 

例えばボストンのグリーンノウの、あるいはピアスの「トムは真夜中の庭で」の、舞台となった庭をちょっと覗くだけでも、手入れの実によくいきとどいた、などというより は、かたくなに守られてきた庭と、それをかたくなに描写してやまなかった作者の激しさ(愛の深さと言ってもいいのですが)を、感じとることができます。単なる庭を、物語の 舞台に生まれかわらせた作者の気迫、いや技術のことです。さて、ファンタジー大賞に挑まれる方々が、この変貌はなはだしく、変わらぬものとて何もないようにすら見える私たちの国で、一体何をかたくなに守ろうとなさり、それを更 に深く認識するために、いかにかたくなに描写なさりつつ物語を構成なさるか、興味津々です。そろそろ私たちの国に新しいファンタジーが生まれそうな気配はするのです。 それにしても、河合さん、神沢さん、佐野さん、清水さんという現代のパリスが、いかなる作品を大賞と見なされるのか、あるいは、そもそも大賞をほんとにお選びになるの か、そちらも興味津々です。私どもが、静かに深く、この賞を応援する所以です。
お祝いのことば
新谷昌明
小樽市長/本センター顧問

このたび、絵本・児童文学研究センターによる児童文学ファンタジー大賞が設けられましたことは、誠に慶ばしくセンター及び関係者の皆様のご努力に対し、心から敬意を表す る次第であります。同センター設立以来、6周年を経ようとしておりますが、この間絵本・児童文学についての基礎講座や文化伝承のための特別講座の開催、会報の発行など多くの啓蒙事業を実施 されてこられました。生涯学習と児童文化の接点、幼年期から老年期までの心の糧づくりを課題として着実な成果をあげてこられております。このような活動により、市民の生涯学習に対する理解や関心が高まりを見せております ことは、市といたしましても誠に慶ばしく思っております。このたびの、ファンタジー大賞の設定を契機といたしまして、小樽発信の文化が全国に拡がってまいりますことをご期待申しあげますとともに、絵本・ 児童文学研究センターの今後ますますのご発展を心から祈念申し上げます。


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